ぽけの入院日記【12日目】

手術が終わり術後の痛みを薬でなんとか乗り切りようやく眠りにつく。しかしそれも束の間、隣から獣のような怒声が聞こえて目が覚めた。

『ウオオ!オンドリャア!』

隣の部屋にガノンドロフがいる。

先生に聞くと認知症のおじいちゃんが隣のICUにいるらしく、認知症でわけがわからなくなっているらしい。ちなみに割とよくあることだそう。地獄絵図。

あまり暴れると鎮静剤で落ち着かせられるそうでしばらく経つと静かになった。

再び眠りに入るが定期的に身体チェックをされるので深くは寝付けない。足首を曲げたり足を浮かしたりバンザイしたり、痺れが悪化してないかも細かくチェックされる。

そんなこんなを繰り返し朝になる。

7時になると例の如く朝食が運ばれる。正直食欲は湧かなかったが36時間ぶりの食べ物はなんとか喉を通った。効果の強い痛み止めを使っていたので吐き気を催す危険があるらしいが気持ち悪くなることは特になかった。

体を動かす気にもならなければ何かをする気にもならなかったが集中治療室用のスマホがあるらしくそれでYouTubeでもどうですかと看護師に勧められたので一応そうすることにした。特に見たいものもなかったがとりあえず全身麻酔について調べてみた。自分もこんな感じで意識がオチたのだろうか。記念に動画でも撮ってもらいたかったものだ。

尿道カテーテルから溜まった尿を交換されたら色々しているとお昼になった。集中治療室では基本的につきっきりで看病してくれるので案外気持ちは楽だった。対応も迅速である。

昼飯も集中治療室で食べた。麻酔もしっかり効いていたのであまり辛くはなかった。昼飯がなんだったかイマイチ覚えてない。昼飯を食べるとようやく集中治療室を抜け病室に戻れた。術後は個室に案内されるらしい。ヤッタネ。

トイレが目の前にある個室に移動した。

トイレまで歩行器で行けると尿道カテーテルが外されるらしい。どうやら試されているそうだ。けれども無理はしたく無いのでとりあえずベッドで安静にしていた。何事も少しずつじっくりとだ。

そう思っていたのに突然リハビリの先生がやってきてこう言った。

「とりあえず立って歩行器で歩いてみましょうか。」

ええ、早くない、、?と思ったがリハビリは早い方がいいらしい。指示されるがままになんとか起き上がり歩行器を掴む。3分ほどかけ、ようやく立ち上がる。キツい、、。

ヨチヨチ歩きで部屋を出ると目の前にトイレがある。トイレを往復できることを確認するとまた病室に戻った。ここでリハビリの先生から提案をされる。

「一応今の段階でおしっこの管抜くことも出来るけど、、どうする?」

 

え、、究極クエスチョンだ、、ここで『抜きます!』と即答できるのはまさに勇者だろう。

抜くのは早いに越したことはないが、いざ今から抜くと思えば気がひける。いや、腰が引ける。どうするどうする。と思っていると見かねた先生が「ヨシ抜こうか!」と決めた。何を勝手に。。。

しかしこうなったら後には引けない。せめてもの想いでこう告げた。

「い、1番、上手な人を、お願い、します、、。」

なんと惨めなお願いか。

しばらくするとベテランぽい男性の看護師がやってきた。顔つきは非常に神妙な面持ちだったためこっちまで緊張してしまう。

「今からおしっこの管をぬきます。痛いか痛くないかで言えば、まぁ痛いと思います。なるべく一瞬で抜きますので覚悟してください。」

ひ、ひぇ、、お願いします、、。

ぬ、抜くときは抜くって言ってよね!!

ここでとーまさんの言葉を思い出す。

尿道カテーテルはマジでヤバいです。』

ゴクリ。覚悟は決まった。

 

看護師が言う。

「…抜きます。」

「………ッ!!」

 

ズボズボズボッ!

 

い、、いってええええ、、、けど、、

一瞬だった、、、。

出産を鼻からメロンが出る痛みと例えることがあるが、この痛みを例えるなら尿道の中を熱せられたビー玉が駆け抜ける痛み。かな。

とにかく熱を感じた。膀胱であっためられていたのだろうか。そして抜くときは瞬間的な激痛が走るが抜いてしまえば後に引く痛みはなかった。幸い尿道にも傷が付かず排尿の際にも痛みはなかった。排尿する時めちゃくちゃ怖かったが。

カテーテルの試練をこえ一安心したところで再び眠りについた。

寝過ぎかと思うかもしれないが術後は本当に体力が無いし、なによりやることも無い。とにかくヒマだ。だから寝る。カテーテルで心も体も疲れた。

暫くすると先生がやってきた。術後の傷口を確認するらしい。横向きになり体につけられているコルセットを外す。いて。いたい。

背中にはドレーンと呼ばれる血を排出する?管が入っているそうでどうもそこが痛む。背中は見えないが想像するだけで気持ちが悪いので見たくもない。

傷口の確認が終わると先生は去っていった。明日からドレーンがのき、点滴も無くなり、リハビリが始まるそうだ。術後は急にスパルタである。若者はさっさとリハビリする方が回復するらしい。

夕食が届く。おかずは牛丼だった。食欲はあまりない。というより体を少し起こすだけでも辛いのでご飯を食べるのも辛い。その後歯磨きするのも辛ければトイレに行くのはもっと辛い。

無理をすれば点滴内を血が逆流してしまう。

あまり腕に力を入れてもいけない。

トイレに行く体力は無かったのでとりあえず寝た。体は痛むが起きておくよりはマシだった。

幸い個室なので隣の患者のイビキや騒音の被害は無く快適だった。

夜9時ころトイレで目が覚めた。痛み止めがまだ効いていたので歩行器を使ってなんとか1人でトイレに行けた。

ところが目が覚めてからしゃっくりが止まらなくなった。これは神経を触ったことによるものらしくしばらく様子を見ないといけないらしい。しゃっくりが止まる気配はない。

なかなか寝付けず横になっていると知らぬ間に寝ていた。

しばらくするとまたトイレで目が覚めた。点滴は尿として排出されるので頻繁にトイレで起きる。もう朝か??体内時計がバカになっているので時間の感覚がわからない。スマホを見てみると夜中の1時半だ。勘弁してくれ、、。

ガチガチの身体に鞭を打ちなんとかトイレに行くとまたしゃっくりが再発した。辛い。寝れないのも辛いがしゃっくりのたびにお腹が傷むのがもっと辛い。

無理矢理横になり1時間ほどかけてなんとか寝つく。しかしまた4時に起きた。またトイレだ。でも今度は痛み止めが切れているようで体が動かせない。いたい。辛い。どうしても立ち上がれなかったので仕方なくナースコールを押す。

「にょ、尿器をお願いします。。立てなくて、、」

男性の看護師が尿器を持ってきてくれた。

寝ながら排尿をする。とても楽だ。

少し罪悪感を覚えるが尿器を看護師さんに回収してもらいようやく眠りにつく。

今日も大変な1日だった。。

そう思い次は朝まで寝れることを願った。

 

P.S手術は一瞬。術後の苦しみはしばらく続く。むしろ術後が本当の地獄だった。